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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)790号 判決 1976年5月13日

原告 寺西明治

被告 住吉税務署長 大阪国税局長

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  申立

1  請求の趣旨

(一)  被告署長が原告に対し昭和四一年一一月一七日付でした、原告の昭和三九年分所得税の総所得金額を金一、〇四五、四五八円とする更正処分のうち金六一五、〇〇〇円をこえる部分、および昭和四〇年分所得税の総所得金額を金一、一七五、八一八円とする更正処分のうち金六二〇、〇〇〇円をこえる部分を取消す。

(二)  被告局長が原告に対し昭和四三年七月二日付でした審査請求棄却の裁決を取消す。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決を求める。

2  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨の判決を求める。

二  主張

1  請求原因

(一)  原告は畳業を営む者であるが、被告署長に対し昭和三九年分および同四〇年分の所得税につき総所得金額をそれぞれ六一五、〇〇〇円、六二〇、〇〇〇円とする各確定申告(白色)をしたところ、被告署長は昭和四一年一一月一七日付で、昭和三九年分の総所得金額を一、〇四五、四五八円、昭和四〇年分の総所得金額を、一、一七五、八一八円とする各更正処分をした。原告はこれにつき異議申立をしたが棄却され、さらに被告局長に対し審査請求をしたが、被告局長は昭和四三年七月二日付で審査請求棄却の裁決をした。

(二)  被告署長のした本件更正処分にはつぎの違法がある。

(1) 本件更正処分は原告の所得を過大に認定している。

(2) 本件更正処分の通知書には理由の記載を欠いている。白色申告に対する更正だからといつて、理由付記を要しないと解すべきではない。

(3) 本件更正処分は原告の生活と営業を不当に妨害するような方法による調査にもとづくものであり、かつ原告が民主商工会員である故をもつて他の納税者と差別し、民主商工会の弱体化を企図してなされたものである。

(三)  被告局長は審査請求についての審理にあたり、原告の取引先等を脅迫して、違法な事後調査を行なつた。

(四)  よつて原告は本件更正処分および裁決の取消を求める。

2  請求原因に対する被告らの認否

請求原因(一)を認め、(二)(三)を争う。

3  被告署長の主張

(一)  被告署長は原告の昭和四九、四〇年分の所得調査を行なつた際、原告に対し所得計算の基礎となる関係書類の提示を求めたが、原告はこれらの関係書類を作成保管していなかつたし、質問に対しても明確な回答をしなかつた。このため被告署長は原告の取引先および銀行について調査を試みたが、これによつても原告の所得の実額計算はできなかつたので、推計により本件更正処分をしたのである。

(二)  原告の昭和三九年および四〇年分の総所得金額は別紙第一表および第二表の各A欄記載のとおりである。

(三)  昭和三九年分の収入金額および必要経費はつぎのようにして算定したものである。

(1) 新畳売上(一般分)、表替えおよび裏返し収入

原告方の昭和三九年中における畳の縁(へり)の仕入量は四八三反で、この一反は畳一〇枚分に相当するから、これによる畳の製造(新調、表替え、裏返し)総数は四八三〇枚となる。原告方における昭和三九年当時の畳製造能力は、従事員一人当り新畳については日産六枚、表替え、裏返しについては日産一〇枚程度であり、原告と雇人一人の年間稼働日数は延六三三日である。そこで以上の資料にもとづいて種目別の年間製造枚数を計算すると、新畳は二二五〇枚、表替え、裏返しは二五八〇枚となるところ(第一表末尾の算式(一)参照)、新畳のうち建設会社(今丑建材店ほか二社)への売上分は一三九六枚であるから、一般の売上分は八五四枚であり、また表替えと裏返しは年間を通じてほぼ同数であるから、各一二九〇枚となる。そして一枚当りの平均販売価格は、新畳一五二九円、表替え八五七円、裏返し三四九円であるから、売上金額は新畳(一般分)一、三〇五、七六六円、表替え一、一〇五、五三〇円、裏返し四五〇、二一〇円となる。

(2) 上敷販売収入

上敷の販売収入は仕入高(貝原商店三四、八三〇円、中屋商店一六七、九一五円)に等しいものとみて、仕入高をそのまま収入金額に計上したものである。

(3) 収入原価および一般経費

これは収入金額に同業者の収入原価・一般経費率(実調率)五七・六一%を乗じて算出した。この実調率は、大阪国税局管内八三税務署中、大蔵省組織規程上種別Aとされている四六税務署の管内における畳製造販売業者で、昭和四〇年分所得税につき実地調査を行なつた青色申告者および収支実額調査を行なつた白色申告者(年の中途で開廃業した者など特殊事情を有する者を除く)合計二一例の調査額を集計して得た平均値である。

(四)  昭和四〇年分の収入金額および必要経費はつぎのようにして算定したものである。

(1) 新畳売上(一般分)、表替えおよび裏返し収入

原告方の昭和四〇年中における畳へりの仕入量は五二七反であるから、前年同様の計算により、畳の製造総数は五二七〇枚となる。また原告における昭和四〇年当時の畳製造能力は前年と同じであり、原告と雇人一人の年間稼働日数は延六六三日である。そこで以上の資料にもとづいて種目別の年間製造枚数を計算すると、新畳は二〇四〇枚、表替え、裏返しは三二三〇枚となるところ(第二表末尾の算式(一)参照)、新畳のうち建設会社(今丑建材店ほか二社)への売上分は七八八枚であるから、一般の売上分は一二五二枚であり、また表替えと裏返しは年間を通じてほぼ同数であるから、各一六一五枚となる。そして一枚当りの平均販売価格は前年と同じであるから、売上金額は新畳(一般分)一、九一四、三〇八円、表替え一、三八四、〇五五円、裏返し五六三、六三五円となる。

(2) 上敷販売収入

これは前年同様、仕入高(貝原商店三八、四三五円、中屋商店四五、八一〇円)をそのまま収入金額に計上したものである。

(3) 収入原価および一般経費

これも前年同様、収入金額に同業者の収入原価・一般経費率(実調率)五七・六一%を乗じて算出した。

4  被告署長の主張に対する原告の認否

(一)  被告署長の主張(一)の推計の必要性を争う。

(二)  別紙第一表および第二表の各A欄の金額に対する原告の認否および主張額は、同表各B欄記載のとおりである。

(三)  被告署長の主張(三)および(四)のうち、原告方の畳へりの仕入量が昭和三九年四八三反、同四〇年五二七反であること、建設会社に対する新畳売上枚数が昭和三九年一三九六枚、同四〇年七八八枚であることは認め、その余は否認する。

(1) 被告署長は畳へり一反が畳一〇枚分に相当すると主張するが、実際には不良品もあれば仕損じもあるので、一反当りの畳製造枚数は九枚とみるべきであり、したがつて畳の製造総数は昭和三九年四三四七枚、同四〇年四七四三枚である。そしてそのうち新畳は四割、表替えと裏返しは各三割であり、一枚当りの平均販売価格は新畳一一〇〇円、表替え六〇〇円ないし六五〇円、裏返し三〇〇円である。

(2) 上敷販売収入は仕入金額の約二割である。

(3) 収入原価は、新畳については売上の六割、表替えについては売上の五割、裏返しについては売上の四割であり、一般経費はいずれも売上の一割である。

理由

一  請求原因(一)の事実(本件更正処分と裁決の存在)は当事者間に争いがない。

二  更正処分取消請求について

1  推計の必要性

原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和三九、四〇年当時その営業に関して帳簿類を何も備えつけていなかつたものであつて、被告署長の行なつた所得調査に際しても口頭で概括的な説明をしただけであり、所得の実額を把握できる資料はなかつたことが認められるので、右両年分の所得については推計によりこれを算定する必要があつたといわなければならない。

2  昭和三九年分総所得金額

(一)  新畳売上(建設会社分)、特別経費(雇人費、家賃)ならびに不動産所得の金額(第一表一1(1)、2(2)、二)については、当事者間に争いがない。

(二)  新畳売上(一般分)、表替えおよび裏返し収入(第一表一1(2)ないし(4))について

(1) 畳業においては、畳の製造(新調、表替え、裏返し)には必ず畳の縁(へり)を使用するものであるから、畳へりの使用数量から畳製造による収入を推計することは一つの合理的な方法と考えられる。

原告方の昭和三九年中における畳へりの仕入量が四八三反であることは当事者間に争いがなく、期首および期末の在庫量は反証のないかぎりほぼ同量とみて妨げないので、同年中の畳へり使用量は仕入量と同じ四八三反であると認める。

証人淡路敦雄の証言とこれにより真正に成立したと認められる乙第六四号証によれば、畳へり一反は長さ四〇米であつて、畳一枚あたりの所要量は、大きい関西間の場合は三九八糎、小さい江戸間の場合は三六八糎であるから、畳へり一反で優に畳一〇枚を製造(新調、表替え、裏返し)できることが認められる。この点について原告本人は、仕入れた畳へりには不良品もあるし、畳製造工程上仕損じもあるので、一割程度のロスを見込まなければならないと供述しているが、前掲の各証拠に照らすと、原告のいうほど不良品や仕損じがあるとはとうてい認められないのみならず、原告本人尋問の結果によると、原告方では関西間だけでなく江戸間も相当数取扱つていると認められるので、畳へり一反で畳一〇枚というのはかなり控え目な認定であるということができ、これからさらに一割を減ずべしとする原告の言い分は採用のかぎりでない。

そうすると、畳へり四八三反から総計四八三〇枚の畳が製造されたものというべきである。

(2) 被告署長は、原告方における従事員一人当りの日産量を、新畳なら六枚、表替えまたは裏返しなら一〇枚程度であるとし、年間稼働延日数を六三三日として、これにもとづき種目別の製造枚数を算定しているところ、右日産量および年間稼働延日数については乙第五七、五八号証(証人向秀夫の証言により真正に成立したと認める)にその数値の算出根拠が記載されているが、証人向秀夫の証言を参酌しても、右数値がさほど信頼性の高いものとは認められず、直ちにこれを採用することは躊躇せざるをえない。むしろこの点については、原告が新畳四割、売替え裏返し各三割という製造割合であることを自認しているので、これに従つて種目別の製造枚数を計算するのが妥当である。

そうすると、製造総数四八三〇枚のうち、新畳売上は一九三二枚、表替えと裏返しは各一四四九枚となる。そして新畳のうち一三九六枚が建設会社(今丑建材店ほか二社)への売上分であることは争いがないので、一九三二枚からこれを差引くと、一般向けの新畳売上は五三六枚となる。

(3) 証人向秀夫の証言とこれにより真正に成立したと認められる乙第七号証によれば、原告と同一区内で営業している類似同業者の昭和三九年中における畳一枚当りの平均販売価格は、新畳一五二九円、表替え八五七円、裏返し三四九円であることが認められるところ、原告方における販売価格がこれより低額であつたことを窺わせる的確な証拠はないので、右同業者の平均単価を原告に適用して所得計算を行なうのが相当である。

そこで前項で認定した種目別の製造の枚数に右単価を乗ずると、新畳売上(一般分)八一九、五四四円、表替え収入一、二四一、七九三円、裏返し収入五〇五、七〇一円となる(第一表末尾の算式(二)参照)。

(三)  上敷販売収入(第一表一1(5))について

証人向秀夫の証言により真正に成立したと認められる乙第六二、六三号証によれば、原告は昭和三九年中に上敷を二〇二、七四五円(中屋商店から一六七、九一五円、貝原商店から三四、八三〇円)仕入れていることが認められる。そして原告本人尋問の結果によると、上敷の販売による利益はほとんどなかつたと認められるので、同年中における上敷販売収入は右仕入額と同額と認定するのが相当である。

(四)  収入原価および一般経費(第一表一2(1))について

成立に争いのない乙第八ないし五四号証(枝番を含む)、原本の存在とその成立に争いのない乙第五五号証によれば、被告署長の主張(三)(3)記載の同業者二一例を平均して得た収入原価・一般経費率(実調率)は五七・六一%であることが認められ、これを原告に適用することを不当とする事由は見出せないので、原告の収入金額に右五七・六一%を乗じて計算すると、二、四八九、六三五円という額が得られる。

(五)  以上によれば、原告の昭和三九年分の総所得金額は一、三二六、五三二円となり、これは本件更正額を上まわる。

3  昭和四〇年分総所得金額

(一)  新畳売上(建設会社分)、特別経費(雇人費、家賃)ならびに不動産所得の金額(第二表一1(1)、2(2)、二)については、当事者間に争いがない。

(二)  新畳売上(一般分)、表替えおよび裏返し収入(第二表一1(2)ないし(4))について

(1) 原告方の昭和四〇年中における畳へりの仕入量が五二七反であることは当事者間に争いがないところ、前年分と同様に昭和四〇年中の畳へり使用量を右仕入量と同じと認め、一反につき畳一〇枚の計算で、総計五二七〇枚の畳が製造されたものと認定する。

(2) つぎに種目別製造割合も前年分同様新畳四割、表替え裏返し各三割として計算すると、新畳売上は二一〇八枚、表替えと裏返しは各一五八一枚となる。そして新畳のうち七八八枚が建設会社への売上分であることは争いがないので、二一〇八枚からこれを差引くと、一般向けの新畳売上は一三二〇枚となる。

(3) 畳の販売単価も前年と同じであるものとして、種目別製造枚数にこれを乗ずると、新畳売上(一般分)二、〇一八、二八〇円、表替え収入一、三五四、九一七円、裏返し収入五五一、七六九円となる。

(三)  上敷販売収入(第二表一1(5))について

これについては、原告は被告主張額よりも多額の収入があつたと主張しているのであるから、少なくとも被告主張の限度では争いがないものということができる。

(四)  収入原価および一般経費(第二表一2(1))について

原告の収入金額に前認定の実調率五七・六一%を乗じて収入原価および一般経費を計上すると、二、八一七、九五六円という額が得られる。

(五)  以上によれば、原告の昭和四〇年分の総所得金額は一、五六八、一一四円となり、これは本件更正額を上まわる。

4  更正手続の違法の主張について

(一)  原告は本件更正通知書に理由の記載が欠けていることを違法と主張するが、原告が白色申告者であることは原告の自認するところであり、白色申告者に対しては更正の理由付記は法律上要求されていないから、右は何ら違法事由とはならない。

(二)  違法調査および差別的取扱の主張については、これを認めるに足りる証拠がない。

三  裁決取消請求について

この点についても原告の主張事実を認めるに足りる証拠はなく、裁決に違法はない。

四  よつて原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 藤井正雄 山崎恒)

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